仕事と介護の両立

渥美由喜氏インタビュー

介護は総力戦 自助、共助、公助の総力戦で仕事と介護の両立を 内閣府男女共同参画会 議専門委員 渥美由喜氏

誰にでも起こり得る介護 職場の風土や意識の改革が急務

株式会社ライフケアパートナーズが作成しているDVD『介護の時代』を監修・出演している内閣府男女共同参画会議専門委員の渥美由喜氏は、いわゆるワークライフバランスの専門家。「仕事をしながら、子育てや介護がしやすい職場環境をいかにして実現するか」を研究テーマとし、企業向けにコンサルティングを行う一方、自らも働きながら、家庭で育児と介護に当たっている。そんな渥美氏に、現代の企業に求められる従業員の家族介護対策について、お話を伺った。

子育てと介護。似ているようで、大きく違う点がある。それは「介護はある日突然訪れる可能性があること。また、いつまで続くのか、状態がどう変化するのかなど不透明性が高いことです」と、渥美氏は指摘する。

要介護状態となった身内に対する介護。とりわけ、職場で重職を担う中高年を直撃するケースが多い。そして、それは本人の生活を直撃するのはもとより、企業にとっても重要なポストを占める人材が介護のために、仕事を長期間休んだり、辞めざるを得なくなって貴重な戦力を失うというリスクとなっている。では、企業はいかにして、こうした介護リスクに備えればいいのだろう。

「何よりも必要なことは職場風土の改善、意識の改革でしょうね」と渥美氏。実は現状でも介護休業制度や短時間勤務制度など、大手企業を中心に介護に関する制度を採り入れている企業は少なくない。だが、問題は「制度はあっても、利用できない、あるいは利用しづらい風土の会社がまだまだ多いことなのです」と、渥美氏は言う。

「人事の評価が下がる」「職場の同僚に迷惑をかける」「今自分が担当している仕事は自分にしかできないから抜けるわけにはいかない」…

こうした職場や従業員の風土、意識をいかに変えるか。渥美氏は「いかに周りの従業員たちを傍観者にしないか。介護の問題は、あらゆる従業員にとって共通の課題であることを認識させることが重要です」と言う。

渥美氏は企業向けのコンサルティングで、こうした職場の風土や意識の改革を指導しているが、「100%確実な方法はない」と渥美氏。ただ、セミナーで講演や体験談を聞くことが「介護は、自分にも起こりうることだ、という気付きのきっかけにはなる。見て見ぬ振りをさせず、早くリスクを自覚させることができれば、心理的に備えることは可能」と指摘する。

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介護体験を映像で見ることで自身の問題と気付くことができる

渥美氏は、従業員の「気付き」にとって、特に有効な方法として介護体験を映像で見せることを提案する。ある日突然、身近な人が要介護状態となり、介護を引き受けなければならない状況に陥る。突然のことに、何をどうしていいか分からず、戸惑う本人と家族。予想できない行動を取る要介護者。仕事と介護の板ばさみで疲弊する心と体。介護を巡って起きる家庭や親族内の不和…。

「映像で見ると、背筋があわ立つ人もいます。カムフラージュすることなく、介護の現実を見せることが大切で、ショックを受けることが一歩を踏み出すきっかけになるのです」と、渥美氏は言う。今回、渥美氏が制作中の介護DVDは「企業の管理職の人たちが自己投影できるような設定になっていますので、ぜひ利用してほしい」と話す。

一方、そうやって、介護が自分の身にも起こり得るということに本当に気付くことができれば、次に大切なのはタイムマネジメント、時間の有効活用だ。仕事と介護を両立させるには、時間を最大限有効に活用することは必須。だが、普段から時間の有効活用ができている人は決して多くなく、また、介護に迫られてからやろうとしても「簡単にできるものではない」と渥美氏は強調する。実際、渥美氏にコンサルティングを頼む企業からも、このタイムマネジメントの研修を依頼する事例は多いという。

一方、組織としての企業にとって大切なのは、ひとつの仕事を1人の人間に集中させないことだ。いつ、どの従業員が抜けても、誰かが代わって仕事を継続できる体制、言い換えるならみんなでカバーし合う組織を作っておかないと、介護対策はおぼつかない。

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「これは介護だけでなく、震災であったり、新型インフルエンザであったり、あらゆるリスクに備えるために必要なこと。
また、特に大企業では経営陣よりもむしろ、部課長など実際にそれぞれの職場をマネジメントしている中間管理職の意識を高めることが重要です」と、渥美氏は言う。

仕事の介護の両立こそが本人にも企業にも必要なこと

そんな渥美氏も「自分が実際に介護を経験するまでは実感としてわかっていない部分もあった」と振り返る。

渥美氏は現在、働きながら実父の介護を務めている。一方で、保育園に通う2人の子の父親でもある渥美氏は毎夕、まず保育園に2人の子を迎えに行き、そのまま父親の自宅へ直行。4人で一緒に食事をし、父親の就寝準備を手伝ってから、隣の市にある自分の自宅へ子どもと一緒に帰り、仕事から帰ってきた妻に子どもをバトンタッチするのが日課だ。父親は昼間はヘルパーに面倒をみてもらっている。

今は自分の生活も父親の状態も落ち着いてきたが、父親が認知症と統合失調症を発症した3年前は大変だったという。父親は徘徊癖があり、頻繁に自宅からいなくなって警察に保護されていた。渥美氏が仕事で講演を始める5分前になって、警察から「父親を保護しているので、すぐ迎えに来るように」と電話がきたこともあった。

一時は仕事を辞めることさえ考えたが、緊急的に入院させた病院の医師の治療が奏功し、その後症状は落ち着いた。介護保険制度やヘルパーの協力も得て仕事と両立させられるまでにすることができた。

そんな渥美氏は自身の経験も交え、「介護は総力戦。1人だけで抱え込むのは絶対に無理。一方で、国の介護保険だけで全部まかなうのも、これまた不可能です」と断言する。「自助、共助、公助。この三つを組み合わせて総力戦で当たらなければ、うまくいきません」

渥美氏のいう「自助」とはこれまで述べてきたように、リスクを自覚し、いざというときの備えをすると共に、親族と良好な関係を築いたり、要介護になる前に本人の意向などを聞いておくこと。また、「共助」とは介護に関する会社の制度をよく理解しておき、いざというときにすぐに利用できるようにしておくこと。

会社側からすると、従業員が気軽に相談できる窓口を設けるなど、介護を話し合える風土をはぐくむ必要がある。最後の「公助」とは国の介護保険制度であり、制度をよく理解し、賢く利用することだ。

渥美氏は「優秀な人材を介護のために失うのは、企業にとっても経済社会にとっても大きな損失。仕事と介護を両立することが本人にとっても必要で、すべての企業と従業員が介護に備えてほしい」と話している。

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